学校と社会との一層の隔たりを憂う白井雅哲(学校法人小山学園 専門学校東京テクニカルカレッジ 校長)
最近、学校と社会とが隔たり、若い人たちが社会と上手く接続できていないと感ずることが多い。
例えば、昨年度の当校において、大学を中退したり大学を卒業した後就職せず入学してきた者が在籍者全体の9%を占めた。彼らに聞くと、大学の学びが自分には合わなかったと言う者と同等数、学びは充実していたが就職できなかったと言う者がいる。古事記の研究をしたが就職できなかった。4年間、海洋生物の研究に没頭したが就職できなかった。ゼミの仲間には車のディーラーに就職した者もいると言う。車のディーラーはすばらしい仕事だが、海洋生物の研究に没頭した後の就職先として本当に納得がいくのだろうか。また、IT企業の求人には「文系新卒者大歓迎、社内研修でシステムエンジニアに」などの文言が踊る。卒業直後のこうした学びの不連続さを受入れる学生の気持ちを思うとやるせなくなる。
また、昨年度は社会人の学び直し学生が在籍者の15%を占めた。当校には夜間課程もありその割合は自ずと高くなるが、驚くのはその半数が大卒者であり、先の大学から直接入学してきた者も含めると、実に当校在籍者の17%が大学の学びを経験した者となったことだ。
一体何が起きているのか。
社会人学生に聞くと、これまでの就職は不本意でもともと好きだったことを仕事にしたいと言う者が多い。そうした中にはいわゆる一流大学を出て一流企業に勤めていた者も含まれる。よく聞くと、高校では一流大学に入ること、大学では一流企業に入ることを優先してきた。就職して数年が経ち仕事が落ち着くと、これが本当に自分がやりたかった仕事なのか疑問に思うようになったと言う。
これらの話を聞いて総じて思うのは、彼らのほとんどが、10代後半に将来の自己実現に向けて、自己や社会そしてその両者をつなぐ職業と向き合えていないということだ。適性もふまえ自分が何をしたいのか、自分が好きなことは職業とどう結びつくのか、そしてそのために自分をどう成長させるのか、考えられていない。小、中、高校と進学を目標に学問の純度は増し、ハイスコアを出す学習に追われ、自己や職業と向き合う機会・時間はますます軽視されていく。中には、自己や職業と向き合うのが、就職活動を始める大学3年生の秋という学生も多いのではないか。また、前例のように優秀な学生になると就職後になることもある。そして、若年層の離職率の高さが話題となる。それは学生個人によるのではなく、自己や職業と向き合う機会・時間をつくれていない教育の構造的な欠陥によるものと思えてならない。また、最近リカレント教育の重要性が謳われているが、その多くが前向きな学び「足し」ではなく、学びの不連続さを補うための学び「直し」である点を残念に思う。そして、こうした学びの不連続さは、個人の損失であると同時に、国や社会にとっても大きな損失である。
繰り返しになるが、学校と社会との間には大きな隔たりがあり、残念ながらますます広がってきている。それは、職業に深く向き合えていないことに起因している。
もしここに橋を架けるとすると、職業と向き合った個々に強みを創り出すことが有効であろう。個々に強みを創って社会との接続を円滑にする。我々職業教育を実践する者、専門分野に身をおいた実務家教員が最も得意とするところではないか。我々がこれを進めるには、専門課程での学習成果をさらに上げる必要がある。そのためには実効性のある教学マネジメント(※1)を実践し常に改善することが重要である。そして、その成果をもって、高校との接続、リカレント教育(※2)、DX人材の育成(※3)等に領域を広げ、時代を担うより多くの個々の中に強みを創り出すことが、今後の我々の大きな責務だと考えている。
最後に、このメルマガの読者に高校生は少ないと聞く。もし高校生の方がいれば、学習に忙しい日々が続くが、是非適性もふまえ自分が何をしたいのか、自分が好きなことは職業とどう結びつくのか、そのために自分をどう成長させるのか、考えていただきたい。皆さんにとって進学や就職はゴールではない。それは通過点であって、本当のゴールは自分らしく社会で活躍することだ。そのために日々の学習と同時に自己や社会そしてその両者をつなぐ職業と向き合ってほしい(自身のため、ここが自己責任であることに早く気付いてほしい)。
そして、我々は多くの方々が自分らしく社会で活躍できるよう、個々の中に強みを創り出すことをとおしてこの隔たりに橋を架ける努力を続けていく。また、そのために力を出し惜しむつもりは微塵もないことをお伝えしておく。
※1
専修学校の質の保証・向上に関する調査研究者会議(第22回)事例報告資料(文部科学省HP)
https://www.mext.go.jp/content/20210628-mxt_syogai01-000016402_3.pdf
※2
自分らしく社会で活躍するために:学び直しを充実させる手厚い支援(文部科学省YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/watch?v=v2-dUSGM1Vo&list=PLGpGsGZ3lmbC-Sa4cmjJO5yAkUmJFRO2j&index=5&t=0s
※3
DX社会をワクワクさせる意欲的な人材を育成(ダイヤモンド・オンライン)
https://diamond.jp/articles/-/268387
(メールマガジン第16号(2021.11.22配信)に掲載)