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学生・生徒が指導を受け容れるとき伊藤秀樹(東京学芸大学 教育学部 准教授)

この文章を読んでくださっている方の中には、学生・生徒への指導に行き詰まりを感じている方もいらっしゃるかもしれません。今回は私の高等専修学校での調査結果をもとに、学生・生徒に指導を受け容れてもらううえで大切なことについてお話ししたいと思います。

私は15年前から、ある高等専修学校で調査をさせていただいています。教師に不信感をもって入学してくる生徒も多いその学校では、入学当初は「問題行動」が頻発し、教師の指導や校則に反発したり無視したりする様子もしばしばみられます。しかし3年間のあいだに、生徒たちは教師との信頼関係の中で、指導を肯定的に受け止めるようになっていきます。

生徒たちは私とのインタビューの中で、教師の指導を受け容れるようになったきっかけとして、主に以下の3点を語っていました。

1点目は、教師の指導が自らの成長に結びつくものだと実感したときです。教師の指導に従ったことで成長したと感じたときや、逆に指導に従わなかったことが失敗だったと気づいたときに、指導を「正しいもの」「感謝すべきもの」と受け止めるようになったと語っています。

2点目は、教師が自分を理解し尊重してくれていると認識したときです。教師の「しつこい」指導に最初は反発心を抱きながらも、やがてそうした指導を「わかろうとしてくれる」「自分のためにここまでしてくれる」と肯定的に読み取るようになった様子を語っています。

3点目は、自分とよく似た過去を持ちながらも、学校生活にまじめに取り組む先輩に出会ったときです。そうした先輩との関わりが、先輩のようにがんばろうと思うきっかけや、校則違反をやめるきっかけになったと語っています。

私はこれらの3つのきっかけから、指導に耳を傾けてもらうためには、学生・生徒の「○○したい」「○○でありたい」という気持ちを汲み取り、それに沿った指導や環境づくりを行うことが大事ではないかと考えます。「成長したい」「他者から理解され尊重される人でありたい」「先輩のようになりたい」といった気持ちに働きかけるような出来事があったからこそ、生徒たちは心を動かされたのだと考えられるためです。

近年では、福祉領域でのストレングスモデルのように、人々の「問題」ではなく「強み」に着目した支援が注目を集めるようになっています。指導に行き詰まりを感じるときには、学生・生徒の「○○したい」「○○でありたい」という前向きな思いや願いを知り、それをうまく生かすような働きかけをしてみるのはいかがでしょうか。

※このコラムは、以下の書籍の第6章がもとになっています。
伊藤秀樹,2017,『高等専修学校における適応と進路――後期中等教育のセーフティネット』東信堂.

(メールマガジン第19号(2022.1.11)に掲載)