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調理師学校(調理師養成施設)ってどんなところ?鈴木啓之(公益社団法人全国調理師養成施設協会 副会長)

◆調理師の成り立ち
日本で最初の料理人は、約2000年前に天皇の料理番となった磐鹿六雁命 (イワカムツカリノミコト)とされていますが、「調理師」が制度化されたのはいつでしょうか。
太平洋戦争後の日本は衛生状況が悪く、食中毒も多発しており改善が求められていました。そこで飲食による健康被害を防ぐために昭和22年には食品衛生法が施行されました。そして料理を作る人の資質向上も必要ということで、衛生などを学んでもらおうと昭和33年に調理師法が施行され、そこで出来たのが調理師制度です。ですから単に料理ができる人ということではなく、食品衛生や栄養のことなど幅広い知識を得たと認められた人の資格になります。料理人にはいろいろな呼称がありますが、調理師とは調理師免許を持った人に限られます。

◆調理師養成施設の設立
その流れの中で、調理師免許を取得する教育を行う調理師養成施設が設置されました。当初は全国で19施設が設立され、そこからだんだんと増加して現在では270施設となり、入学者数は約13000人となっています。
中学校卒業で入学する施設(高等専修学校・高等学校など)と高校卒業以上で入学する施設(主に専門学校)があり、修業年限は1~4年間となっています。 調理師法が定める必修時間は学科が570時間、実習が390時間ですが、それ以外にもいろいろと教授している学校が多いので修業年限にも幅があります。

◆日本の多様な食文化
明治維新で西洋料理が入ってくることで料理業界は新たな段階に入りました。日本は他国の文化を取り入れて自国の文化とするのが得意と言われていますが、西洋料理からハンバーグ、オムライス、トンカツなどの「洋食」と呼ばれるものが作られ、中国料理から天津飯、エビチリ、ラーメンなど中国本土にはない料理が作られました。その後もイタリア料理やエスニック料理など各国の料理が取り入れられ多彩な食文化を形成するようになりました。
現在は家庭料理でも多彩な料理を楽しみますが、実はこうした国は世界の中でも珍しく、ほとんどは自国の料理を中心に食べています。地方の小さな都市にも和食・中国・フレンチ・イタリアンなど様々な種類の店があるのも他国ではあまり例がないと思います。
そうした中で料理のレベルも高くなり、現在ではミシュランガイドで三ツ星を持つレストラン数の世界1位は東京、2位はパリ、3位が京都で4位が大阪、5位はロンドンと日本はベスト5に3都市が入っているほどの国になりました。

◆調理師養成施設の教育
イタリアの調理師学校はイタリア料理、フランスであればフランス料理と基本的には自国の料理を中心に学習をしますが、日本では和・洋・中国料理の基本は学習しますし、包丁も和包丁・中国包丁・牛刀など数本を使い分けられるようになります。これは前述したように多彩な食文化に対応するためであり、アレンジする実力を身に付けることにあります。そのまま調理場に就職した場合はこうした力は身に付きにくいので、養成施設で学習する大きな利点となります。
 最近は実践力養成としてレストラン実習室を設置したり、企業連携に取り組むなどの施設も増えており、教育内容は時代に合わせて進化していっています。

◆これからの調理師教育
日本は健康寿命が世界一の長寿国であり今後は人生100年時代を迎えると言われていますので、より「元気に健康に」暮らせることが重要となっています。健康づくりには健全な食生活が柱となり、特に高齢者にとっては生命維持だけではなく食を楽しみとするために介護食の技術も進み、介護施設だけでなく一般の飲食店でも提供されるようになるでしょう。
また、地域おこしではローカルガストロノミーが重要視されており、地域食材を活かすための知識や理解も必要となっています。
SDGsの観点からはサステナブルレストランの必要性も認識されるようになり、環境に配慮する調理法も世界的に重要視されるようになってきています。
これからは調理師養成施設でもこうしたことに対応した教育が必要となってくるでしょう。
豊かな食文化を持つ日本の調理業界を担い、これからますます進化していく調理技術や知識に対応できる人材を養成する学校として、今後も進化を続けていきます。

鈴木啓之 (公益社団法人全国調理師養成施設協会副会長 学校法人鈴木学園理事長)
平成21年6月より協会理事、令和元年6月より協会副会長を務める。その他、全全国専修学校各種学校総連合会、静岡県職業教育振興会会長、静岡県私学審議員も務めている。学校法人鈴木学園は昭和43年設立、現在はこども園1園、専門学校5校11学科を設置しており、平成29年4月より理事長に就任している。

(メールマガジン第55号(2024.8.26配信)に掲載)