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脚本家・櫻井剛さんインタビュー
「まずはスタート、走りながらゴールを決める」2022.12.22

2022年8月、NHKの夜ドラ枠で放映された『あなたのブツがここに』。
元キャバクラ嬢のシングルマザーが、コロナ禍の影響を受けて宅配ドライバーに転職して奮闘する物語。放送中からSNSなどで大きな反響を呼んだ作品は、ギャラクシー賞 の2022年9月度月間賞を受賞。さらに第113回ザ・テレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品にノミネートされるなど、話題になっています。
このドラマの脚本を担当した櫻井剛(さくらい・つよし)さんは、専門学校を卒業後、様々な出会いや巡り合わせを経て、『マルモのおきて』で本格的に脚本家デビュー。その後は『限界集落株式会社』、『表参道高校合唱部!』、『幕末グルメ ブシメシ!』、『4分間のマリーゴールド』など、多くのドラマを執筆、現在も第一線で活躍中です。
そんな櫻井さんに、仕事の面白さや専門学校生時代の話などを語っていただきました。

どうして脚本家になろうと思ったのか?

小学校のころから映画が好きだったので、シンプルに映画を作る仕事がしたいなという思いからここまで来た感じです。
同級生の実家が映画館で、中学校時代はよくその映画館に行ってはただで映画を見させてもらっていました。
中学の時に「映画監督になりたい」って友達がいて、映画監督って何をする人かいまひとつよくわからなかったのですが、シナリオライターなら物語を作る人だということがわかるし、なんかかっこいい感じがしたんです。それで高校卒業後の進学先として、映画作りを学べる専門学校を選びました。

脚本の作り方は?

人によって違うと思うのですが、僕の場合は、ひたすら頭の中で、ドラマを見るみたいに動画を再生し、それを書き起こしていきます。とにかく頭の中で物語を再生し続けます。
もちろん主人公はどういう設定で、ドラマのテーマは何で、ということはある程度決まっています。
話がスムーズに流れていないな、なんだか面白いストーリーにならないな、と思ったら、視点を変えてみたりして、何度も何度も頭から再生していきます。
そういう作業を繰り返す中で、いろいろなキャラクターの人生を感じられたり、話が面白く展開していったときにはとても気持ちよくなります。それがこの仕事の面白さでもあります。

専門学校時代に学んだことは?

専門学校で学んだことは、具体的な脚本の書き方です。原稿用紙の使い方など。
脚本はト書きとセリフしか使えないちょっと特殊なルールがあるので、それをきちんと学べたのはよかったです。
あとは人との出会いです。
専門学校を卒業して、専門学校時代の仲間と自主映画を作りながら、力試しにと書いたドラマ脚本で賞を受賞して実質的に脚本家としてデビューできました。その賞金を切り崩しながら、引き続き好きなことを続けた感じです。
その後も、仲間たちと作った映画を、専門学校時代の講師が運営している映画館で上映させてもらうなど、縁にも恵まれました。専門学校の仲間や恩師には、本当にお世話になりました。
その頃の作品を俳優の徳井優さんが観て、所属する事務所の社長さんに薦めて、そこからテレビ局のプロデューサーなどに僕を紹介してくれたようです。
そんな縁もあって徳井さんと同じ事務所に所属することになりました。おかげで仕事が広がったり、専門学校時代の先輩にアニメ脚本の仕事を紹介してもらったりと、人とのご縁やめぐりあわせでどんどん将来が開けていきました。

脚本家という仕事を通して、今、どんなことを考えているか?

僕自身、若い時は割とこそこそ作品作って、こそこそコンペに出したりしていましたが、今はSNSやYouTubeがあって堂々とモノづくりが出来る世の中になっています。手軽に自分たちの作品を発信できるという、うらやましい側面もあるのですが、最近は素直過ぎる子が多くて危うさも感じます。僕が若い頃はもっとしたたかでズル賢く自分を表現していたので、今となってはその部分が僕の強みになっているかもしれません。

中高生はじめ、若い人たちにメッセージを。

専門学校は、同じ志を持つ仲間と「いい映画って何だ」みたいなことを朝まで議論したりして、自分とは考え方が違う人間がいるんだということを知ったり、自分を客観的に見ることができました。それが今、自分なりの表現に繋がっているので、中高生にも、自分を客観的に見ることを意識して欲しいと思っています。
あとは、自分の将来について、焦ってゴールを決めなくてもいいんじゃないかなと思います。僕自身、今45歳ですけど、まだまだ将来はあると思っていて(笑)。
若い頃は、将来の夢をすぐ仕事につなげて考えてしまいがちですが、とりあえずスタートしてみることが大事だと思います。まだ10代の時点で人生のゴールを決めるなんて無理な話だと思いますし、どこがゴールになるかなんて誰にも分からない。まずはスタートして、走りながらゴールを決めるといいと思います。

(プロフィール)
櫻井剛(さくらい つよし)

1977年茨城県日立市生まれ。専門学校東京ビジュアルアーツ映画演出専攻卒業。2001年『青と白と水色』で日本テレビシナリオ登竜門大賞受賞。2005年、映画『ゴーグル』では脚本以外に監督も担当。現在はテレビドラマ、映画、アニメーション等、幅広いジャンルで活動中。

取材:長谷川華