専修学校
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“見えない世界”に挑む!
日本で唯一“くっさく”を学べる専門学校2024.10.07

2022年4月、北海道の釧路空港に近い白糠(しらぬか)町に開校した掘削技術専門学校は、日本で唯一掘削(くっさく)の技術が学べる1年制の専門学校。教室のある建物の隣りに寮があり、学生は濃密な1年を過ごすことになります。
“掘削”とは、石油・天然ガス、石炭、地熱、各種金属、温泉、水などの地下資源を掘り当てたり、その資源を活用し続けるために地面に坑井(こうせい)とよばれる穴を掘る技術のこと。再生可能エネルギーとして注目される地熱発電とも関わりが深く、可能性に満ちていますが一般にはあまり知られていないのが実情ではないでしょうか。
掘削の方法には、「パーカッション」、「スピンドル」、「ロータリー」の3種があり、同校には「ロータリー掘削コース」、「スピンドル掘削コース」と「掘削管理者養成コース」があります。
開校初年度の入学生は4名でしたが、3年目の今年は16名の学生(社会人経験者も多い)が学んでいます。今回、この学校で学ぶ4名に話を聞きました。

D型ハウス(実習棟)が並ぶ

学校の敷地に大きな櫓(やぐら)がある

かまぼこ型の実習棟。各種機材がおかれている

先生は各分野の第一線で活躍する専門家

掘削に使う機器の見本は、「これからの人材を育ててくれるなら」と業界のメーカーから寄贈されたものが多い。
これはパイプの先端につけるドリルでビットと呼ばれる

地層の状態にあわせて掘削する必要があり、採取された試料は重要な役割を果たす

掘削は危険が伴う作業なので安全教育には力を入れており、企業が研修に使うこともある

実際の掘削はなかなかできないので、シミュレーターで学ぶ

Tさん(18歳)

もともと恐竜のゲームが好きで地層や化石に興味があり、さらに高校では地学が好きだったという中でこの学校を偶然知り、進学を決めました。中学・高校と柔道部だったこともあって、将来は体を動かす仕事につきたいなというのも理由の1つです。両親はもちろん、高校の地学担当の進路指導の先生など皆が後押ししてくれました。掘削技術をマスターするのに5年はかかると言われていて、それを1年で学ぶので難しいなと思うことも多いのですが、やりがいはあります。

Iさん(30歳)

大学卒業後、8年間データ管理の仕事をしていたのですが、この先自分の仕事がAIに置き換わってしまうのではないかという危機感を感じたのと、30歳を区切りに体を動かすような仕事をしたくて入学しました。2期生に友人が2人いて、「掘削の技術は人間にしかできないからなくならないよ」と勧められたことも大きいです。確かにこの学校の生徒への求人率は約4倍で、引く手あまたの業界なんです。いま就活中ですが、実際に志望している企業の掘削現場を見せてもらったりして、卒業後は、実際にこういった現場で働くんだというのを実感しているところです。

Kさん(24歳)

地元の香川県で自衛官をしていましたが、自分のステップアップのために専門学校で何か技術を学びたいという思いと、北海道に住んでみたかったのでネットで「北海道 専門学校」で検索したら、この学校がヒットして決めました。1年間の学校生活ですが、備え付けの家具もある個室で、寮母さんのご飯もおいしいし最高の寮生活を送っています(笑)。自衛隊に入る前に高専を中退していますが、機械などには興味があったので学んでいる内容は面白いです。

Nさん(26歳)

隣町出身で、首都圏の大学に進学したのですが、なかなか周囲とうまくコミュニケーションが取れなくて1年で退学。その後は3年間引きこもっていました。さすがに26歳になるし、何か手に職をつけてから就活をしたいなと思っていたときに、通っていた歯医者さんにここを教えてもらって入学を決めました。働き出したら周囲の人たちとのコミュニケーションも大事になると思ったので寮にいます。今は前向きに学ぶことができているので、この学校に入ってよかったと思っています。

掘削技術専門学校は業務スーパーの創業者である沼田昭二氏が、日本のエネルギー自給率の低さに危機感を感じて私財を投じて作られました。「掘削技術は、これからの再生可能エネルギーのためにとても重要なものなのに、若い人材が足りていないと聞いたのが学校設立の理由です。これから先、掘削技術は日本のエネルギー自給率の向上や地方の町おこしなど、わが国が抱えているいくつもの課題解決に役立つものと確信しています。ぜひ若いみなさんにこの学校で学んで、掘削というやりがいのある仕事に関わってほしいと思います」(沼田氏)。

日本は地熱エネルギーの資源量が世界第3位で地熱資源大国ですが、その膨大な地熱資源を生かしきれているとは言えません。その可能性を拓くための職業教育を行う専門学校が同校です。
「なぜ、入学者は社会人経験者が多いのでしょうか?」という質問に、「既に働いていて、世の中の動きに敏感なご家族や周りの皆さんが強く後押ししているのでは」という校長先生の答えが印象に残りました。
多くの人がよく知らない、地下深くを相手にするという二重の意味で“見えない世界”には、人間ならではの技が求められているようです。