専門学校との4年間の産学連携教育プロジェクトで得た
企業側のメリット水野拓宏(株式会社アルファコード 代表取締役社長 CEO、国立大学法人静岡大学 客員教授)
私たち株式会社アルファコードは、メタバースを含めたVRやARという新しい体験型メディアに関連する技術を様々な企業に提案し、社会実装すべく活動している会社です。
仕事の中で「技術」と「アイディア」をいくつも結びつけ、まだ世の中にないサービスの創出に取り組んでおり、新技術を世の役に立つモノにできるよう知恵を絞っているところです。
そのような弊社では、事業領域での新しいアイディアの創出は企業として優先度の高い課題です。しかし、弊社員だけでそれを継続することはなかなか苦労の連続で、その中、2018年に滋慶学園グループのOCA大阪デザイン&テクノロジー専門学校の産学連携教育プロジェクトである「企業プロジェクト」にお誘いを受けて、4年間の連携をいたしました
お声がけ頂いた際にプロジェクトを進めようと判断したのは、私の母校の芝浦工業大学での在学中、企業で活躍している技術者を積極的に講師として呼ぶ授業があり、そこに来るゲスト講師のお話が学術的な面とはまた違ってとても楽しく、学びと社会を結びつける意識付けをしてもらえたと常々感謝しており、同様の事で学生に貢献できれば、それもまた弊社のできる技術の社会実装であると考えた為でした。
授業では、VR技術の歴史や概念的な特徴に始まり、我々の実際のビジネス事例を基に、企画段階から運用までユーザを考慮して仕事をしている実例を伝えて、実際に学生のグループでVRゲームを制作します。制作したゲームは審査を行い、優秀だったものは展示会に出展され一般来場者に体験評価してもらいます。
このようなプロジェクトを4年間続ける中で、他にも企業側のメリットがある事に気付きました。
一つ目は、「技術に対して新しい視点を得られる」という点です。
もちろん社員も日々新しい視点を獲得しようと頑張ってはいるのですが、お客様の都合やビジネスとしての優先順位を守る意識が染みつき、なかなか枠をはみ出た思考をする事は難しいのが現状です。しかし学生はそのような優先順位に凝り固まっていませんので、我々では得られないような技術の使い方を考え出すので、そこから気づきを得られることが数多くありました。ある年のプロジェクトでは、通常は手に持つVRコントローラーをママチャリのペダルに取り付けて回転を検出することで進行するゲームが学生から提出され、意外なVRコントローラーの使い道を学ばせてもらいました。このゲームは日本最大のゲーム展示会でも多数のメディアから取り上げられ、学生にとっても大きな自信となった良い思い出です。
二つ目は、「学生への説明で技術理解が深まる」という点です。
我々の日々の仕事の中でも、最新の知識や技術を調査して実践を行っておりますが、どうしても「今使える」表層的なものになりがちです。しかしプロジェクトの中で学生の皆さんに教える際の授業資料として自分の知識をアウトプットする為に確認と整理を行うと、実は今までWebからの受け売りのままに間違った知識を覚えていたことや、歴史や原理が曖昧なままで技術を利用していたことを、おのずと気づかされます。その為、授業後は社内での技術教育でも、より正確に分かりやすく整理して正確に伝えられるようになり技術力の向上に繋がりました。特に営業が客先での技術説明を詳しくできるようになり「客先からより信頼されるようになった」との感想で好評です。
三つ目は、「社員の対応力が獲得できる」という点です。
プロジェクトの中では、学生に弊社の技術を体験してもらうデモを必ず行います。最近では学生全員が弊社のメタバースに入って授業を受けるようなデモも行います。これは通常の営業でも同様なのですが、普段相手をするお客様は自分達と同様に社会人なので、相手もこちらのやりたい事をある程度予測して、こちらの意図通りに頷いたり動いてくださいます。しかし裏を返すと、実はお客様が理解できておらず、うまく説明できていない部分が見えにくいという事でもあります。学生に説明すると、そういったこちらの準備や説明が不足している部分は、「わからない」「できない」という素直な反応が返ってきますので、より分かりやすく自分達のデモをブラッシュアップする為の、とても良い機会になっています。このように鍛えられるおかげで、我々のデモは展示会等でも「会場内で一番メタバースについて分かりやすかった」というお言葉をもらう事もしばしばです。
他にもありますが、このように産学連携教育プロジェクトは企業経営を行っている身からしても続けるメリットの多いものとなっています。こういったプロジェクトにおいては企業側のメリットやコストも問われがちですが、学校の皆様にも企業に具体的なメリットがある点について知っていただき、今後の展開において産学連携の一歩を踏み出す、双方のきっかけづくりの種として参考にしていただければ幸いです。
(メールマガジン第30号(2022.10.10配信)に掲載)