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人生を能動的に生きたい中学生のための「高等専修学校」を目指して岸本南(東京表現高等学院 MIICA 副校長)

私は大卒後の平成元年からレコード会社等に勤務した後に独立。50代半ばになった今も、幸運なことに現役の音楽プロデューサー、クリエイターとして様々なプロジェクトに参加させていただいています。

新たなアーティストやプロジェクトに携わらせていただくきっかけには出会いの運もありますが、様々な現場、様々な方々が必要としてくれる知識、テクニック、人間性、ビジネス感度や仕事のスピード感を、常にアップデートしながら持ち合わせているかが重要です。

エンターテイメントやクリエイティブと呼ばれる市場が根本から様変わりしたのがインターネット定着以降であったことは、誰もが同意されることと思います。「シェアする」という行動が当たり前になったことは、CDやDVDの購入からデータのやり取りへの移行を加速させ、良くも悪くもコンテンツの価値を可変的なものとしました。「タダで体感できるコンテンツ」と「有料のコンテンツ」は、現在私たちの生活のありとあらゆる領域に存在しています。これが現在の「デジタル」な生活です。

一方で、音楽やアート、パフォーミングアーツ、文章といったコンテンツは、元々人間の感情や衝動を刺激する「アナログ」なものです。日本の昔のシティポップが海外で近年リバイバルヒットしたように、時代や流行がどんなに変化しても、人の感情から湧き出たものが時代を超えてヒットすることはこれまでにもたくさんありました。この先AIがさらに進化したとしても、人間の創造性を100%凌駕し続けることは難しいでしょう。

上述したようなことは、ともすればネット検索して容易に得られる情報かもしれませんが、私は40代から「直接的な後進の指導」の必要性を感じ、自分の仕事を行う一方、様々な教育機関で講義を行ってきました。ネットでも得られる形式的な「知識」だけでなく「走りながら学ぶ、学びながら走る」「現場にいる人が目の前で語りかける」という「実学」による体感こそが重要であり、「普通の学校」にはそこが足りないと思ったからです。日本では、就職してから初めて「ビジネス実学」を体感しつつ学ぶことが当たり前です。インターネットが普及してはや数十年が経過し国境を越えたビジネスが容易になったにも関わらず、肝心のビジネスを牽引すべき有能な人材は後天的教育で成立してゆくことの危機感を、様々な現場で感じていたからに他なりません。

人生100年時代も叫ばれていますが、9年間の義務教育後に高校、4年制大学を辿った場合の学生生活は16年間。100年生きなかったとしても殆どの場合は「社会人」として生きる期間のほうが圧倒的に長い。また一方で世の中の変化は目まぐるしく「今年の常識は来年の非常識」も笑い事では無くなっています。

激しい変化が起こり得る長い人生では、都度「能動的に」情報を収集し、取捨選択し、INPUTを繰り返し、OUTPUTを繰り返し、成果を得る。この「成果を得るまでを含めた基本動作」こそが、社会人に必須のベーシック能力です。この能力を培う時期は、出来るだけ早くからの方がいいと私は思います。外国では、小さな子でも作ることが容易なレモネードの出店を家の前で行わせてビジネスを総合的に体感させることが昔から行われています。「社会的コミュニケーションの経験」としても良いことですし、成果を増やしたいと思う子はレモネードに様々な味付けを施すなど「工夫」を始めます。「学校組織で行う文化祭の出店で思い出作り」とは、得られるものが違うのです。

雇われる人にも「能動的に取り組む人材」と「受動的な人材」が存在します。ビジネスの現場で主にどちらが必要とされるかは言を俟たないでしょう。もう一歩進めるなら、俯瞰的視点を持ちシチュエーションに合わせてこのどちらにもなれる人材は最強です。

こうした「基本姿勢」を「知識」でなく「血と肉」にしてもらうには、専門学校から教えるには少し遅く、2年制では時間も少ない。大学では特別講義としてしか場を作れない。そう悶々としていた時に出会ったのが、現在私が勤務する「東京表現高等学院 MIICA」という高等専修学校でした。

この学校で私たちは「クリエイティブ」「エンターテイメント」のやり方を学んでいただくと同時に「これらのやり方を使って、どうしたらご飯を食べてゆけるのか?」を学べる授業を行なっています。クリエイティブもエンターテイメントも「楽しい」。だからこそ、その楽しさを「さらに楽しく」するにはどうしたらよいのか?他の人々にも「楽しんでいただく」にはどうしたらよいのか?時代に合わせたり、時代の先を行くとはどういうことか?自分ゴトだけでなく他人ゴトまで網羅して「感情を震わせる」には?を、若者たちに学んでいただいています。若者の可能性を底上げする教育を行いたいのです。

ここでベーシック能力をしっかりと身につけてもらった上で、さらにレベルの高い能力を得るため社会人の一つ手前の段階(大学や専門学校など)へ確固たる目的を持って進学してもらう。もちろんすぐに社会へ出ることも出来る。クリエイティブ業界やエンターテイメント業界を志向する中学校を卒業した方達に対して、自由度の高い授業を3年間行うことが出来る環境はまさに理想的です。そして、私たちは「アンテナを高く張れる入学者」を望んでいます。

高等専修学校には高い理想を掲げた様々な学校があります。しかし、その知名度はまだまだ世の中的にメジャーな存在とは言えません。このコラムが、こうした学校があることを内外の皆様に知っていただく一助になっていただくことを、願ってやみません。


岸本南(東京表現高等学院 MIICA 副校長)

大手レコード会社でディレクター、プロデューサーを経験した後にプロダクション、音楽出版社の取締役を経て独立。音楽、映像、CM、広告、イベントなど「エンターテイメント」をキーワードに幅広く活躍を続ける一方、2020年より東京表現高等学院 MIICA入職。2022年春より副校長に就任。

(メールマガジン第34号(2022.12.5配信)に掲載)