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#知る専コラム

中小企業経営者から見た専門学校板垣薫(板垣金属株式会社 代表取締役)

地元の工業高校を卒業後すぐに父の経営する板金工場に入社しました。当時の工作機械は単純で、金属板を切る・穴を空ける・曲げる・溶接する機械が職人の感覚で調整され、製品が作り出されておりました。
その頃 、NC工作機械(数値制御)が世の中に出始め、私はいち早く装置の導入に向け動きました。結果、職人さんの経験より数字で管理が出来るようになり、お客様からは精度が良いと褒められる事が多くなりましたが、ますます難易度の高い要求が多くなりました。その結果 、数学が必要になりました。相談先は高校の先生のところ、そこは高校で教えていないと一緒に考えていただきましたが、結果は出ませんでした。

パソコンが出始めていたことから購入してみました。ベーシックでプログラムを組み計算機として使用したところ、関数表を見ながら計算していた時は3日かかっていた作業が2時間で出来て大変驚きました。
嫌いだった勉強が楽しくなってきました。地元に工業系の大学が出来ると聞き、同じ環境の友人と挑戦しようと、密かに受験勉強を始めました。一年かけ受験できる状況になり、父に相談しましたが良い答えは出ませんでした。「今 お前の技術を見込んで来てくれているお客様をどうするんだ」。何も言い返せませんでした。
それから一か月後 、父からの提案で月に1度(土曜日)勉強時間をやる、方法は考えろ、塑性加工学会の会員でもあった事から学会誌の面白いテーマで研究されている先生に電話をし、土曜日に伺いたいと話すと ほとんどの先生が受けていただきました。そこで新技術の勉強をさせていただき、技術開発の面白さを実感いたしました。

そんな事を続けながら、一方で地元の仲間と商品開発をテーマに動物用医療機器の開発を目的とした異業種交流グループを設立、犬用のジェットバスの開発に着手する事となり、産(特殊金属材料・樹脂加工・木加工・刃物製作・表面処理・ソフト開発)、学(獣医科大学・技術科学大学)、官(工業技術センター)の皆様から協力をいただき、県の補助金を使い1年間で開発いたしました。
人間用の場合、ジェットの噴射口は4ケ口又は6ケ口ですが、動物用は20ケ口と多く、全身の薬浴を目的とし皮膚病治療に採用いただきました。 獣医さんの多くが犬の皮膚病に悩んでいた事もあり、高額でしたが全国の動物病院に購入いただけました。その後は同じグループで猫用の避妊プレートや猫用点滴補助具・犬用酸素マスクなど要求に応じ、ニッチな分野ではありますが、その都度産学官のコンソーシアムを組み開発し販売してまいりました。

そんな中 、7年前に三条市様の企画で新潟コンピュータ専門学校の説明があると聞き リクルートのつもりで参加させていただきましたところ、ロボットクラブとコラボレーションして何かを作ろうとなりました。
3チームに分かれ当社2名と専門学校から3名+先生でディスカッションを進め、庭の草刈りロボットを製作することになりました。コンセプトは庭の草を定期的にロボットが動き回り、草だけを抜き取る装置開発。問題は草と花を見分けるためのセンサーや刈り取る(抜き取る)方法、花と認識した時の道線の考え方、悪路を走る機構などが出てきました。大きく草を抜く機構は当社が受け持ち、それ以外(草花を見分けるセンサー・駆動部分・起動ソフト)を専門学校で受け持っていただきました。結果 、移動中に草を見つけ草ホールドクランプが稼働し抜き取り、その草を後方に設置したダストボックスに入れるまでが自動で出来大変驚きましたし、このスタッフがいればいろんなことに挑戦できると思いました。たぶん他の2チームよりは良いモノづくりが出来たと思います。(笑い)
残念ながらその時の学生さんの就職先は決まっておりリクルートは出来ませんでした。

そのあと、獣医さんから動物の外科治療に使う計測装置の依頼が入りました。装置の作成は可能と思うのですが、その結果をWi-Fiでコンピューターに転送してほしい、その部分は未経験の事も有り お引き受けするか悩んでおりましたが、新潟コンピュータ専門学校に相談したところ話を聞いていただける事となり、学校にお邪魔して先生をはじめ学長まで同席いただき技術的な事を相談させていただきました。その後、先生からご連絡をいただき、コロナ禍でもあり携わっていただける学生さんにリモートで内容を説明し了解いただき、一緒に勉強として取り組んでいただける事となりました。途中リモート会議を3度ほど実施、通信の問題や、部品の納期問題などございましたが、都度相談し解決することが出来ました。完成後説明を受けに学校へ伺い、初めて学生さんとお会いいたしました。リモートで進めていた事もあり少し心配いたしておりましたが、お願いしていたことが伝わっており安心いたしました。装置はプロトタイプが完成し、市販できる様にただいま準備中です。

とかく勉強と実務が違っているために入社後面食らう人がいらっしゃいますが、このように実務に近い勉強をされた専門学校の皆さまは即戦力として期待でき頼りになる仲間として一緒に働けたらと思います。
いま専門学校で勉強をされている皆さん、これからはより高度化された思考が必要となります、目的に向かい妥協することなく勉強を進めてください。私たちも皆様方の働ける環境を充実させ、スキルを十分に発揮できる職場つくりを準備いたします。
明日の日本を私たちと一緒に創りましょう。

板垣薫(板垣金属株式会社 代表取締役)

新潟県生まれ。家業である板垣金属工業に入社。
微細レーザーの研究開発を大きな柱とし、金属加工の技術と経験を次代へ活かす取り組みに邁進中。地域の専門学校生をインターンとして受け入れたり、専門学校とコラボレーションした新商品開発なども行っている。
現在、板垣金属株式会社代表取締役のほか、(有)クリエイティブキッズ取締役、(株)ワイヤードの取締役を兼務。塑性加工学会の新潟支部監査役、商工会(栄商工会)副会長。

(メールマガジン第37号(2023.1.23配信)に掲載)