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卒業制作「ダ・ヴィンチの橋」プロジェクト in 大阪万博記念公園編2021.07.20

大阪工業技術専門学校
https://www.oct.ac.jp/

大阪工業技術専門学校の卒業制作では、身につけてきた学びをもとに、豊かな発想力を生かしたものづくりを経験します。今回は、学生4名のチームが大阪府日本万国博覧会記念公園事務所と協働し、万博公園が抱える景観課題の解決と魅力創出を図るべく、「ダ・ヴィンチの橋 [※1] 」を応用したアーチ橋を設置するプロジェクト が実現[※2]。チームリーダーを務めた大薮慎平さんと担当教員・金子和宏先生に、6ヵ月間にわたる制作過程を振り返ってもらいました。

※1 レオナルド・ダ・ヴィンチが考案した木組みの自立橋。釘や接着剤などを用いない、摩擦と重力を利用した堅固な構造が特徴。
※2 橋は一般公開はしていません。

金子:
今回、大阪府日本万国博覧会記念公園事務所(以下、万博公園)との協働プロジェクトが実現した背景には、大薮くんたちの先輩の存在がありました。実は2019年度に、万博公園から園内の川床制作を依頼いただいていたんですよね。彼らもすごく頑張っていて、2020年2月には仮設置、4月以降にも期間限定の一般公開を予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でやむなく中止に……。ところが今年、「ダ・ヴィンチの橋」という斬新なアイデアが出てきた。それで、もう一度公園に貢献できないかと、制作の計画を提案させてもらったんだよね。

大薮:
そうですね。でも、はじめは「なにをつくればいいんだろう?」とだいぶ頭を悩ませました。「橋をつくりたい」という想いはメンバーみんなに共通していたのですが、錦帯橋 [※3] のようなものだと構造が複雑で難しいし、それでも挑戦しがいのあるものはつくりたいし……。そんななか、YouTubeでダ・ヴィンチの橋を見つけて、模型をつくってみたんです。

※3 山口県岩国市にある木造のアーチ橋。東京都中央区の日本橋、長崎県長崎市の眼鏡橋に並ぶ日本三名橋のひとつ。

金子:
工程を指導してくださる親方も、「おもろいやん」とおっしゃっていたね。

大薮:
はい。この橋の面白いところは、なんと言ってもシンプルでダイナミックな構造です。万博公園へのプレゼンでは、その魅力を伝えるために、原寸に近い棒材の模型を使って実演しました。

スケッチ画像

▲「ダ・ヴィンチの橋」のスケッチ

万博公園設置候補地の検討

金子:
万博公園から提案いただいた設置候補地は、上津道沿いや森の舞台などを含む7ヵ所。そのなかから選んだのは、松の池でした。小川が流れる気持ちのよい景観だけれど、思った以上に川幅が広い。大人がジャンプすればなんとか飛び越えられるものの、お子さんだとぐるりと回り道しなければいけなかったんですよね。そこで、ここに橋を架ければ行き来もしやすくなり、より人が集う場になるのではないかと考えました。

大薮:
「緑に溶け込むような橋にしてほしい」というご要望もいただきましたね。1970年の万博開催から約50年経つ公園は、成長した木々が生い茂る自然豊かな場所です。そこで、先生が「材料に丸太を使ってみたら?」と言ってくれて。

材料は丸太を削る

金子:
山に生えていた、切り倒したままの木を使えば、橋も景観に馴染むんじゃないかなと。組み合わせる面は角材に加工しつつ、橋の外観に丸太の風合いを残すのはどうかと提案したんですよね。それに、自然の木を自分の手で製材するという過程は、大工の技術を身につける上でも貴重な経験になりますから。ということで、橋づくりは丸太を削るところからはじまりました。

大薮:
それがめちゃくちゃ大変で(笑)。今回はじめて使った昔の工具「ちょうな [※4] 」の扱いにはかなり苦戦しました。刃を入れる角度や力の入れ具合が繊細で、角材にしようとしてもなかなか直角にならない。削ったそばから反ってきて、墨つけ [※5] どおりに加工できないこともしょっちゅうでしたね。感覚をつかむように、みんなで15本の丸太をひたすら削り続けました。

※4 日本の伝統的な工具のひとつで、弓なりの柄の先に平たい刃がついた斧の一種。
※5 墨糸と墨壺を使って、木材を加工するための印をつけること。

金子:
削る箇所によって、木材には膨らんだり、曲がったり、さまざまな癖が出てきます。普段の実習では、工場できれいに加工された角材を使いますが、本来僕たちが向き合っているのは、形状も質も異なる自然の木。その癖をどう生かすかが大工の腕の見せどころです。正直、「このペースでは無理なんちゃうか」と心配もしていたんだけど、後半は作業スピードが段違いに上がったね。

施工

大薮:
最初はみんな、自分のほうに刃先が向くちょうなを使うのがおっかなくて、力いっぱい振り下ろすことにためらいがあったんですよ。怪我を防ぐために、野球のキャッチャーが脚につけるレガースを装着していましたからね(笑)。でも、徐々に恐怖心も薄れ、僕が墨つけをしてみんなが加工を進めるというように、作業を分担できるようになっていきました。気づけば実習期間の約半分を製材に費やしてしまい、とにかく「先に進めなあかん!」という状況でしたしね。橋を支える桁と梁ができた段階で一度組み、強度を確認できたので、次の工程へと移りました。

金子:
自然の材料を生かした骨組みに対し、階段には規則正しい板材を使ったところもこの橋の面白いポイントでしたね。実際に人が通る場所をしっかりとした構造にしたことで、メリハリのある外観になりました。

大薮:
スケッチの段階では、手すりも支柱と笠木 [※6] だけでした。そこに、先生のアドバイスのもと、転落を防ぐための格子や板を加えたんですよね。図面どおりに組み立てるだけでなく、使う人や周囲の環境を見据えながら、素材選びや必要な設備を整えることも大切な仕事なんだなと感じました。

※6 手すりの上部に渡された、人が手を添えるための横木。

金子:
そう。製材しているときも、材の角を取ることで人の手により馴染むよう、メンバーの間で「ここはもうちょっと面取りしよう」と話し合っていたやん? ちゃんと手を加えたら加えただけ、成果は見えてくるんです。学生がつくるものとはいえ、目指すのはちゃんと人に使っていただけるものですから。

大薮:
プロジェクトを通して、材料に向き合う大工さんの技術と、ものづくりの奥深さを垣間見ることができた気がします。つくったものが人に使ってもらえる喜びを味わえるように、これからも現場で頑張っていきたいですね。

2021.07.20

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大阪市北区天満1-8-24