竹中大工道具館「天平の匠に挑む 古代の知恵vs現代の技術」展覧会で卒業制作作品が展示されました2021.11.16
大阪工業技術専門学校
https://www.oct.ac.jp/
2021年3月に大工技能学科を卒業しました、森村海斗さん、齊藤祐希乃さんの卒業制作作品「斗栱(ときょう)」(*)が、神戸竹中大工道具館にて唐招提寺金堂模型 「斗栱(ときょう)」 として展示されることになりました!
(*)斗栱(ときょう):伝統工法で、柱の最上部や軸部の上に設置され、軒桁を支える部位の名称です。
大阪工業技術専門学校 大工技能学科の卒業制作とは
教員:
2年間の「建築技能実習」授業の集大成として位置付けられる課題で、2年生後期開始時(9月末)から2か月、週2日の作業時間で作品を完成させ、提出する制作です。数ある技能実習の課題の中で、唯一自分自身がやりたい事が出来る課題なので、2年前期後半からテーマを考え、教員、技術指導の大工職の親方と相談し、設計図面の作成や、材料の拾い出し等を行い、準備します。作品は、1名または2~4名のグループで制作します。内容や出来栄えにより、公営の公園や施設等に寄贈し使ってもらう等、社会貢献活動にもつながっています。
この卒業制作作品を作る切っ掛け
森村海斗さん:
卒業制作として、同級生の齊藤祐希乃さんと一緒に、奈良市にある唐招提寺金堂の「斗栱」を1/3スケールの模型で再現しました。斗栱は社寺などの木造建築で使われる、屋根を支える木組みの一部で、柱の上に付いているものです。斗栱をつくりたいと思ったのは、入学したばかりの頃に、竹中大工道具館へ見学に行ったことがきっかけでした。(*)
(*)コロナ前は、1年生の授業の一環として、クラス全員で竹中大工道具館の見学をしていました。
館内に展示されていた、高さ4メートルにもおよぶ唐招提寺金堂の原寸模型「斗栱」に圧倒されて、「これ、どうやってつくるんやろう?」とすっかり惹きつけられました。高校時代は機械科を専攻していて、ものの構造に興味があったので、あわせて紹介されていた各部材と組み立ての過程にも魅了されました。
難題が多く、先生方や講師の親方にサポート頂きながら、作品を制作する
森村海斗さん:
唐招提寺が建てられたのは約1,200年前。なかなか一筋縄では制作出来ません。
構造や設計に関する資料がほとんどなかったので、まずは実際に現地へ行って、細部の写真を撮影することからはじめました。それから、奈良県立図書情報館に行き、撮ってきた写真と、館が所蔵する資料とを照らし合わせながら図面を描いていきました。
昔の資料は、「寸」(東アジアにおける尺貫法の長さの単位で、日本では約3.03センチメートル)で表記されているため、計算も大変でしたが、暗算力が鍛えられました(笑)。
計算していくうちに、サイズが体感できるようになってきたため、長さのとらえ方も少し変わったような気がします。
大工仕事の現場では、今も「寸」を使うので、その力は役に立っています。
4人のチームで卒業制作をつくる同級生もいるなかで、僕たちは2人での制作だったので、かなり必死でした。そのため、ほぼ毎日、授業後も残って作業していたのですが、その甲斐あって、立派な作品ができました。とても作品の出来がよかったので、学内の「卒業生作品展」に竹中大工道具館の方をお招きして見ていただいたほどです。そうしたら、なんと寄贈のご依頼をいただいて、2021年10月に同館で開催される「天平の匠に挑む 古代の知恵VS現代の技術」(https://www.dougukan.jp/special_exhibition/tenpyo_kobe)でお披露目することが決まりました。しかし、やはり出展させていただくからには、さらなるバージョンアップも必要になりました。
「唐招提寺金堂1/3模型 斗栱」へ バージョンアップ
森村海斗さん:
春から工務店に就職して、大工見習いとして働きはじめたばかりの頃に、先生からお知らせいただいて本当に驚きました。卒業制作のテーマを決めるきっかけとなった場所に、寄贈できるとは夢にも思わず、とても嬉しかったです。また同時に、慣れない仕事と並行して、さらに製図に加工と、この後やるべき作業がどんどん頭に浮かんできて不安にもなりました。しかし、引き受けるからには、責任をもってやらなければいけないと思い直しました。
教員:
二人の会社の上司とも相談し、おふたりには、週に一度、後輩たちを指導する講師扱いとして学校に来て作業をしてもらうことになりました。
森村海斗さん:
寄贈するにあたり、具体的には、斗栱の上部に載る屋根構造の「桔木(はねぎ)」(*)を新たに加えることになりました。桔木は屋根の荷重を支える部材で、軒先に差し込んだ柱材を、反対側(屋根内側)に設けた支点を軸に、テコの原理で持ち上げる役割があります。
(*)桔木(はねぎ):屋根の内部から屋根勾配なりに入れて、軒先を支えるために使う部材のこと。
今回は、竹中大工道具館から、追加制作する範囲を枠で示した屋根の参考図面をいただくことができました。ただ、よく見ると、桔木が途中までで省略されていて。つまり、特徴的な構造が見えなくなっていたんです。
クレーンなどの重機や電動工具のない時代に、どうやってあんな建物を組み上げることができたのか。大工さんたちの工夫を想像すると、尊敬の念しかありません。千何百年も経っているのに、軒先の先端を見上げると、乱れずにビシッと揃っている。乾燥や湿気で歪んだり膨張したりする木の特性を読み取っていたのですね。
教員:
今回の制作で、森村さん、齊藤さんたちは、大工のものづくりの根本にある姿勢を肌で感じていました。その経験は、この後の仕事にもきっと生きてくるはずです。
2021.11.16
大阪工業技術専門学校
大阪市北区天満1-8-24